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【リリースのお知らせ】袷着物の型紙がついに完成しました
はい、こんにちは。和裁着物の店主のヒロです。
この度は、袷着物の型紙を作ってリリースしましたので、そのお知らせです。
なぜ「袷着物」が欲しかったのか:冬の寒さと着心地
冬の自転車移動でも暖かい!空気の層の力
まず何で欲しかったかっていうと、冬は寒いからっていうのがあります。
実際着てみたら着心地が良かったという話なんですけれども、冬がとても暖かいです。
例えば、今僕が着ている方は一重(ひとえ)の着物なんです。中に長襦袢を着ていれば、まあまあ暖かいんですけれども、やっぱり裏地が入っている「袷」の方だと、逃げない空気が一番確実に入るから、めちゃくちゃ暖かいです。
特に僕は、朝晩に保育園の送り迎えが自転車であります。子供を保育園に送っている時、真冬の朝は3度とかそれぐらいの温度だったりするわけですね。風がビュービュー吹いてくる。
そんな中、特に足が暖かいです。腿(もも)のあたりをこう包んで守ってくれるわけです。
自転車の乗り方はまた別で解説したいですが、裾がはだけないように洗濯ばさみで止めておくと、腿の部分を含めて足に空気の層が1枚噛んでいるから、全然寒さが来ません。
逆に風の届いてしまう「すね」や「膝」のあたりは寒いので、それはそれで股引が必要です。ただ、体の中心に近いところが暖かいというのは、すごく癒やされる感じですね。
裏地が生む「すべすべ感」とストレスフリーな着心地
表地はどうしても、しっかりしたものにしなきゃいけないので、若干のゴワゴワ感があるんですよね。
それを直接、あるいは長襦袢越しに着るにしても、袖を通した瞬間に肌に当たる感覚が違います。
袷着物の内側は、縫い代処理がないから袖が通しやすい。表と同じようにスルスルと進む仕組みになっているからです。
体に当たっている感覚がまるで違う。一番違うのは縫い代の処理ですね。
現代的なロックミシン処理だと、布の端が飛び出していて体に当たる感覚があります。伝統的な一重の和裁でも、三つ折りにすることで多少「ボコッと」するんですよね。しっかり感のある表生地のボコッと感です。
袷着物を知ってしまうと、一重に戻った時のその感覚が気になります。
今回使っているのは着物用の綿の裏地ですが、もうすべすべ感が半端じゃないです。綿であっても全然つるつるなんですね。今回、裏も表も綿のダブル(二重)なので、それも暖かさの理由だと思います。
僕の和裁の先生に言わせると、絹であっても表裏なら暖かいそうです。いつか絹の袷もやってみたいですね。
「吹き」と「控え」:型紙で実現したこだわりのディテール
チラリと見える「吹き」の楽しさ
今回面白いのが、ただ温かいということだけではなく「吹き(ふき)」ですね。
袖口から裏地をチラリと出す。羽織の場合は全く一対一の「毛抜き袷」というやり方をしますが、男着物でも袷の場合は、吹きがわずかに2ミリだけ出ます。
このミリ単位の調整は型紙が苦手とするところで、伝統的な和裁にはかなわないんですが、なんとか1ミリほど出せました。茶色の表地に対して紺色の裏地がチラリと見えて、本人的にとても楽しい面があります。
裾にも「吹き」がありまして、裾は3ミリほど出ます。これなら結構あからさまに見えますね。裾に紺色の裏地がチラリと見える状態が続く楽しさがあります。
「控え」の美学
逆に、裏地が見えないように意識する「控え」という場所もあります。それが襟下(えりした)、つま下です。
ここは表生地しか見えないように、逆に裏生地は2ミリほど後ろに下がります。裏から見ると表生地が見える状態ですね。
こういう細かなこだわりが和服にはあります。
歩いていると必ず裾を蹴って歩くことになりますが、その時に裏地がチラッと見える。自分でも見えて「ああ、嬉しい」という、完全に自己満足なんですが、裏地にはこういう楽しさがありますね。
制作の苦労:ミシンで縫える手順への再構築
伝統を覆す「36手順」の工夫
作る側としては、ものすごく大変で時間がかかりました。
今回は型紙を作るソフトウェアから書いて、それを印刷して貼り袷て、実際に作ってみるという手順でしたが、その手順も伝統的な作り方とは根底から覆しています。
より現代的に、ミシンでも作れるように、手縫いや「くけ」を全くしない方法を実現するために順番を全部入れ替えているんです。
それによって矛盾が発生したりするので、撮影し直しや手順書の書き直しが何度もありました。途中でソフトウェアのバグが見つかれば、パソコンに向かって直して、印刷し直して、もう一回撮影……。カメラスタンドがある状態でミシンを縫うのも、視界が遮られて本当にやりにくいんですよね(笑)。
作業量は倍、でもメリットもある
手順としては全部で36手順あります。これは一重の着物とあまり変わりませんが、途中までは表と裏の両方で作るので、作業量としては実質倍です。
ただ、一重のように「三つ折りにしてくける」という緻密で時間のかかる作業がいらないというメリットはあります。
表と裏をガッチャンコして、ひたすらミシンで直線縫いで縫い袷るだけ。もちろん高さの調整や左右の袷は繊細な作業ですが、三つ折りくけと大差ないペースで進めるかなという感じです。
あと「中閉じ」ですね。背中心、脇、おくみの線を、内側でお互いに縫い袷ています。これをしていないと表と裏が中で離れてずれてしまうんですが、しっかり袷ることで全体がガチッとくっつきます。あえて袖付けだけは浮かせていますが、これは肩のラインを美しく出すための工夫です。
AIと新言語「Python」による技術革新
業界初の「計算し尽くされた型紙」
これまでの型紙本は大抵「浴衣」止まりで、カジュアルなものが多かったですが、僕はフォーマルにも使えるものを目指しています。
今回の「袷」は画期的であり、業界初と言えるかもしれません。
「吹き」や「控え」は、型紙で計算しきれない部分なんです。直線だったものが片方だけ折れて、縫い目が若干ずれる……この矛盾をどう解決するか。裾では吹きをゼロにし、襟下でマイナスに、袖口でプラスにするというこの流れを、全サイズ(SSからLLまで)に応用するようにソフトウェアを書きました。
AIという「部下」を抱えた開発環境
これが実現できたのはAIのおかげです。昨年の夏頃からAIによるプログラミングが可能になり、僕は「監督役」に徹することができるようになりました。2つの画面で同時に「部下2人」を抱えているような状態で、爆速で開発を進めました。
さらに、5年くらい使い続けていたPHPという言語から、Python(パイソン)に切り替えました。Pythonは画像出力や計算が得意な言語なので、型紙の質が劇的に上がり、機能も拡充されました。
現代人の体格に袷た「継ぎはぎ(はぎ)」機能
着物の反物の幅は大体36センチですが、これだと出来上がり幅は34センチが限界。裄(ゆき)は最大で68センチしか取れません。
現代人の体格、特に僕(178センチ)のような人間には到底足りません。
これまでは「ツンツン状態で着る」か「反物を2反用意する」しかなかったですが、今回は「反物1反の中から出る余り布で、肩や袖を継ぎはぎする」機能を自動化しました。
なるべく目立たない位置に継ぎはぎを持ってくることで、裄をしっかり出しつつ、安く仕立てることができます。
進化した商品ページ:リアルタイムサイズ算出
商品ページもPythonで書き直しました。これによって何がすごいかというと、サイズ表がバラエティ豊かになっています。
「ワイドサイズ」などの裏メニュー的だったサイズもリアルタイムで表示できるようになりました。
よくお問い袷いただく「110センチ幅の洋服生地を使う場合、何メートル必要か」という質問にも、コンピュータが「身頃・袖・襟」などの配置パターンを全組み袷試した上で、最短の長さを自動算出する機能もつけました。
図としても示してくれるので、見ているだけでも面白いと思います。
最後に:生地選びのアドバイス
洋服用の可愛い生地で作りたくなる気持ちもわかりますが、実際に着てみると、やっぱり着物用の反物(単物)は着心地が良いです。必要な「張り」と「厚み」があるからです。
洋服生地だと裾さばきが悪かったり、ヨレヨレになったりすることもあります。
メルカリなどで安い反物も手に入りますから、ぜひ本当の着物の生地でも試してみてください。
それでは、今回の「袷着物の型紙」、どうぞよろしくお願いいたします。