昔の日本では、浴衣を寝巻として使っていたと言われます。
しかし実際に浴衣で寝てみると、すぐに一つの問題に気づきます。
寝返りを打つと、前がはだけてしまうのです。
足を開いたり体をひねったりすると、簡単に着物の前が開いてしまう。
これでは現代のパジャマのように安心して寝ることはできません。
では、江戸時代の人々はなぜこの問題なく眠ることができたのでしょうか。
江戸中期から後期の生活を前提に考えてみます。
目次
江戸時代の布団はとても重かった
まず現代と大きく違うのが、布団の重さです。
江戸時代の掛け布団は、綿をたっぷり入れた綿布団でした。
現在の羽毛布団とは違い、かなり重さがあります。
重い布団は体を押さえつけるため、
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寝ている体が大きく動きにくい
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大きな寝返りを打ちにくい
という状態になります。
つまり、現代よりも睡眠中の体の動きが小さかった可能性があります。
寒い家では、あまり動かないように寝る
江戸時代の家には、現代のような暖房設備はありませんでした。
冬の夜は室内でもかなり寒くなります。
そのような環境では、布団の中の暖かさを逃がさないように、
できるだけ体を動かさないようにして眠るのが自然な寝方になります。
大きく動けば布団の中の空気が入れ替わり、寒くなってしまうからです。
この点も、着物が大きくはだけにくかった理由の一つと考えられます。
寒い季節は浴衣だけではなかった
もう一つ着目したいのは、冬に浴衣一枚で寝ていたわけではないという点です。
寒い時期には、
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襦袢
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丹前
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綿入りの袷の襦袢
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綿入りの丹前
などを重ねて着て寝ることもありました。
つまり実際の就寝時の服装は、浴衣一枚ではなく
複数の和服を重ねた状態だった可能性が高いのです。
そうすると、体が動いて外側の丹前がはだけたとしても、
中に着ている襦袢はまだ残ります。
さらに大きく動けば襦袢もはだけるかもしれませんが、
衣服が一枚しかない場合に比べて、露出は起こりにくくなります。
裾を巻く着方は動きを制限する
和服の構造そのものにも、着崩れを防ぐ要素があります。
着物は、下半身の布を
裾で足を包み込むように巻く
形で着ます。
もし寝る前に、
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裾をややきつめに巻き
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足の動きを抑える形で布団に入る
とすれば、理論上は
下半身が大きく開きにくくなるため、
着崩れも起こりにくくなります。
現代のパジャマは脚が完全に自由に動きますが、
和服は構造上、着方によっては、脚の可動範囲がある程度制限される服とも言えます。
問題は浴衣ではなく「寝具と環境」かもしれない
現代の寝具環境は、江戸時代とは大きく違います。
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軽い羽毛布団
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暖かい室内
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自由に寝返りが打てる寝具
こうした環境では体がよく動くため、
着物の前も簡単にはだけてしまいます。
しかし江戸時代の環境では
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重い布団
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寒い家
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重ね着した和服
という条件が重なり、
睡眠中の体の動きが小さくなりやすかったと考えられます。
和服が寝巻として成立していた理由
このように考えると、問題は浴衣そのものではなく、
和服と寝具環境の組み合わせにあったのかもしれません。
江戸時代の生活環境では、
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重い布団
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寒さ
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和服の重ね着
- きつめの着方
という条件によって、着物の前が大きくはだける状況は
それほど起こらなかった可能性があります。
浴衣で寝るという習慣も、当時の暮らしの中では
一定の合理性を持っていたと考えられそうです。